分かる人
先日、新聞で目に留まった記事がありました。
それは、「悪貨は良貨を駆逐する」というものでした。
これは、一体どういうことでしょうか?
このことわざには、実例があります。
16世紀(*今から500年ほど昔)、イギリス(イングランド)のヘンリー世8が、度重なる戦争の費用捻出のために、本来純度の高い銀で作られるべき銀貨を「銀でメッキした貨幣」に変えてしまいました。
さて、皆さん問題です!
Q.その変えられてしまった“メッキの銀貨”、またそれまで“良質な銀貨”は、その後どのようになってしまったでしょうか?
A.銀の含有量を落とした貨幣を流通させた結果、人々はそれまでの『“良貨”はしまい
こみ、“悪貨”ばかりを使うようになり』、良貨は市場から消えてしまいました。
日本史に詳しい方はご存知だと思いますが、元禄時代(*今から300年ほど昔)に同じようなことが起こりました。
幕府財政を立て直すべく、当時の幕府勘定奉行の提案で、新しい小判をつくりました。
それは、いままでの小判の金の含有量が約15グラムだったのに対し、新小判は約10グラムと、およそ3分の2ほどに減らし、作られました。
[◎これまで2枚しかできなかった小判が、3枚できることになりますので、正に打ち出の小槌状態!]
この登場した元禄小判と、そしてそれまでの慶長小判の行く末は・・・イギリスのケースと全く同じ運命をたどります。
『質の悪い元禄小判のみが流通して、質の高い慶長小判は退蔵』してしまいます。
海外でも日本でも同じことが起こるのは、本当に奇妙な感じがします。
その結果、貨幣の質を落とすことで、一時は幕府の懐をうるおすことはできたのですが、その先の深刻なインフレーションを起こしてしまうきっかけになりました。
悪質な小判をたくさんつくってしまったことで、貨幣の価値が落ちてしまったのです。
売る側とすれば、同じ商品をそれまでと同じ価格で売っても、質の悪い金貨しか手に入らないのですから、値段を上げるのは当然のことですね・・・。
良貨と悪貨が共存すると、悪貨に良貨は駆逐されてしまうものです。
私たちの指導現場やクラブ運営においても、実は悪貨と良貨があります。
良貨・・・つまり、子どもにとって『良い環境』。
良い環境をつくるには、大きな「困難」が伴います。
(つまり、それはコストに相当します)
一方で、苦労して生み出した「価値」のある良い環境と、それほど苦労しないで生み出すあまり価値のない環境が、同じ評価を受ければ・・・
どうしても指導者やクラブ側は、苦労しないでできる方向(悪貨製造)に走ることになるでしょう。
子どもたちのサッカークラブは、どこも同じでしょうか?
サッカーボールを蹴って、ユニフォームを着ていれば同じ評価になるのでしょうか?
「(手段を)選ばない」、「安易に決める」
その先にあるものは・・・歴史が証明しています。
1.経済を良くしようと、安易な方策をとる
2.良貨は、悪貨に駆逐される
3.一時、経済は豊かになった(お金が増えた)ような錯覚に陥る
4.国も国民も、インフレにより大打撃を受ける
未来をほぼ間違えずに、正確に予見できる人などいません。
しかし、正に今の自分の行動の選択を誤ってはいけません。
「何が正しいか」
「何が誤りか」
私自身も子どもたちのために、『分かる人』にならなくてはいけません。