巻誠一郎選手
日本代表選手発表のシーンです。
〈GKから始まり、登録選手23人目に近づいた時〉
「ヤナギサーワ、タマーダ、マキ・・・」
(...ぉぉおお *記者会見会場は一瞬どよめく)
いきなりですが、これは2006FIFAワールドカップドイツ大会の日本代表発表の際の監督記者会見の1シーンです。
もう10年前のことになりますが、サッカー好きの皆さまのご記憶には、鮮明に残っていることではないかと思います。
2006年6月9日、ジーコ監督(*当時)が、ワールドカップに出場するメンバーを発表しました。
その最後に名前を読み上げられた選手が、
さて、今回の主たる内容も、先回のJ2リーグ第13節
前半28分辺りに、巻選手は相手選手とのヘディングの競り合いの際、
左頬を強打します。
(頬は切れていませんでしたが、口の中からは出血をしていました)
そして、それから10分も経たない前半37分のことです。
千葉の左サイドから良い軌道のクロスボールが入ります。
ボールは、熊本ゴール前を横切り、
ファーサイドで待つ千葉の選手に繋がりかけました。
ただ、そのボールは、対応した熊本の選手にヘディングでカットされます。
しかし、下がりながらの(不利な)体勢でカットしたボールは、
ルーズボールとなり、
それを千葉のエースストライカーのエウトン選手が奪おうとしました。
正に熊本が大きなピンチになりかけた時・・・
巻選手が前線から猛然と駆け戻り、それを阻止しました。
気持ちの入ったプレーに、心打たれました。
この後に続きました、NHKBS放送の中継で解説を務めていらっしゃいました、
山本昌邦氏の言葉がさらに心に響きました。
「『できないこと』と『しないこと』は、
全く意味が変わってきますので・・・
できないことは、それ(成すため)の技術がないとできないのですけれども、
できることをしないというのはいけない。
そういう意味では、巻選手の姿勢は、
今日のスタメン・・・意味がよく解ります」
巻選手は後半39分に交代しますが、
ベンチに下がるまでの間、終始チームを鼓舞し、
自身も体を張ってプレーし続けました。
後半29分に味方GKがボールを奪われ、追加点を決められた後は、
すぐさま駆け寄りミスをしてしまったGKに声をかけて肩をたたき、
周囲の味方にも声をかけていました。
(※口元の動きから想像し、「切り替えよう」、「まだ時間はある」、「がんばろう」…という内容であったのではないでしょうか)
話は戻りますが、当時の日本代表のジーコ監督が、最後に巻選手の名前を
読み上げた時、周囲はどよめきました。
それは、他に有力な選手がいたからだと言われています。
しかし、この苦しい状況で、自分を犠牲にしても
チームの支えとなって働けるところは、
きっと10年前も巻選手が持っていた力だと思います。
ヘディングの強さなど身体的な強みの部分だけでなく、
この『人間力』を評価して、チームの力になれると感じたから
ジーコ監督は巻選手を選んだのではないかと推測されます。
当時、“サプライズ”と言われたこの出来事が、10年経った今、
サプライズではなかったことが解りました。
種目は変わりますが、野球界の名将、野村克也氏は、
監督時代次の言葉をよく口にされていました。
「全力で頑張っているヤツは、使ってみたくなるんだよ」
『一生懸命に勝る美しさはなし』