強かな戦略
ワールドカップRussia2018も決勝トーナメント進出国が決まりました。
日本は、ポーランドとの最終節を落としたもののリーグ2位。
フェアプレーポイント(*今大会から導入)の差でセネガルを上回り、
決勝トーナメントに駒を進めることができました。
戦いを終えた後、
巷ではいろいろな声が聞こえてきます。
サッカーをよく知っている方
サッカーをあまりご存知ではない方
・・・
意見は様々です。
中には・・・
すっきり“勝つ”には、
「一般的に主力選手」と言われている
長谷部選手、香川選手などをなぜ外したのか?
しかも
なぜ、6人ものプレーヤーを入れ替えて臨んだのか?
その辺りを正しく理解しなければ、
状況は呑み込めません。
(いつも求められるのは、“正しい理解”です)
一方、
この世間一般が
“❓”
と捉えられたその理由や背景を探ることで、
西野監督の強か(したたか)な戦略が読み取れます。
では、ポーランド戦の幾つかのポイント(要点)の中の
『6人のメンバー変更』
を挙げて今回は考えてみたいと思います。
前節のセネガル戦から変更された先発メンバーは以下の通りです。
大迫選手 ⇒ 武藤選手
香川選手 ⇒ 岡崎選手
乾選手 ⇒ 宇佐美選手
原口選手 ⇒ 酒井高徳選手
長谷部選手 ⇒ 山口選手
昌子選手 ⇒ 槙野選手
以上の6人です。
大幅な変更ですから、
「なぜ?」
と思われても不思議ではありません。
しかし、
深く考察しますと、
全て理由があることが解ります。
▷その1:システムの変更(2トップシステム)
これまでのグループリーグの先の2戦は、
フォワードは縦関係(ワントップの下にトップ下を配置)のシステムで
戦ってきました。
つまり、
ボールの収まりの良い大迫選手
と
配給力の高い香川選手
の組み合わせでした。
これがなぜこの試合・・・
“岡崎&武藤”という
『似たようなタイプの2トップ』
を採用したのでしょうか?
この理由は、
遡ること3カ月前のポーランドが韓国と戦った試合の結果が
大いに影響していると推測されます。
その試合とは?
2018年3月27日の親善試合、ポーランドvs.韓国(@ポーランド・ホジェフ)。
試合は後半40分までポーランドが2−0でリードしていました。
その後、韓国は立て続けに2点を決めて同点に追いつきますが、
後半アディショナルタイムにピオトル・ジエリンスキが決勝弾を決め、
3−2でポーランドが辛くも勝利した試合でした。
韓国はこの日、本職のサイドバックがケガで離脱したことで
急遽、4−4−2から、不慣れな3−4−3のシステムに変更して臨みます。
ただ、その影響で最前線のエース、ソン・フンミン選手が孤立する場面が
目立つ結果になります。
しかし、ゲーム中に慣れた4−4−2に戻したことで、前線が活性化。
その際、2トップを組んだファン・ヒチャン選手が、
DFの裏に動き、スペースを作ったことでソン・フンミン選手を生かせる
ようになりました。
2トップシステムの4−4−2に転換が
結果的に流れを(韓国に)呼び戻しました。
この内容を踏まえ、西野監督は(親善試合 ポーランドvs.韓国をもとに)
ファン・ヒチャン選手が実践したような守備の裏を突く動きが、
ポーランドに対する有効な攻撃の一つと考え、
機動力ある武藤選手と岡崎選手の2トップの組み合わせを選択したのではないか
と考えられます。
つまり、
「ポーランドの裏を突かれたときの守備の対応の鈍さを突く布陣」
で臨んだのです。
▷累積警告の関係
ワールドカップのレギュレーションの一つ、
●累積警告2枚で次戦出場停止
●レッドカード1枚で次戦出場停止
ということは、多くの方がご存知のことでしょう。
さらに、次のことが重要になります。
「累積警告1枚の場合は、グループステージ終了時点でリセットされない」
ということ。(*準々決勝終了時でリセットされることになります)
ポーランド戦が始まる直前での日本の累積警告は、
乾選手と長谷部選手が、それぞれセネガル戦で警告を受けていました。
したがって、
仮にポーランド戦で更に1枚提示されますと、
決勝戦トーナメントに進出した際、その初戦に出場ができなくなります。
そのリスクを回避するために、
先の2人はベンチスタートになったことが考えられます。
▷ポーランド左サイドへの対応
今大会のポーランドは、
第1節のセネガル戦は4-5-1
第2節のコロンビア戦では3-4-3
システムをそれぞれ採用。
最終節の日本戦は、大敗した第2戦のコロンビア戦反省を踏まえ、
4-5-1に戻すことを計画。
これは試合前にもポーランド地元紙「クルゼプラド・スポルトウィ」にも
(予想として)その内容が記されていました。
その4-5-1システムで
攻撃時の速攻のカギを握るのが・・・
左サイドバックに入るリブス選手⑬でした。
コロンビア戦では左サイドハーフ(ウイング)
のそれぞれのポジションでプレー。
スプリント(☚時速24.48㎞以上の走り)が
セネガル戦は47本、
コロンビア戦で36本。
ともにチーム内で高い数字を記録。
さらに、ポーランドで絶対マークすべきプレーヤーを忘れてはいけません。
それはエース、R.レヴァンドフスキ選手⑨です。
そのレヴァンドフスキ選手へのボール供給は、
セネガル戦・・・
2人のボランチ、クリホビアク選手⑩が7本、ジエリニスキ⑲が6本
コロンビア戦・・・
3バックの一角のピシュチェク選手⑳が6本、パズダン選手②が5本
そして一方、
レヴァンドフスキ選手からのパスは・・・
左サイドのリブス選手に“最多”の5本が送られていました。
ポーランドの先の2試合を分析しますと、
ボランチやセンターバックから、レヴァンドフスキ選手に縦方向にボールを出し、
そこからオーバーラップしてきた左サイドのリブス選手に出す
というパターンが見えてきます。
ボランチ・センターバック ⇒ レヴァンドフスキ ⇒ リブス ・・・
タフでアグレッシブなリブス選手が、
日本の右サイドを苦しめるのは想像できました。
4-4-2の中盤の右サイドに起用し、
相手の左からの攻撃を遮断する作戦は、充分理解できるものでした。
※ただ、日本戦のシステムは4-4-2のような形で・・・リブス選手の登場もありませんでした。。。
▷センターバックの変更
相手の要注意人物は、言わずと知れたレヴァンドフスキ選手です。
で、
そのレヴァンドフスキ選手は、
2010年から現在まで、ドイツ・ブンデスリーガで活躍しています。
そのブンデスリーガでプレーした経験のある日本人デイフェンダーが・・・
槙野選手(1.FCケルン *当時)でした。
その頃、現在もバイエルンミュンヘンで活躍中のレヴァンドフスキ選手は
ドルトムントに所属。
ちなみに、香川選手とも同僚でした。
そこで、
「相手エースの特徴を少しでも理解している」
槙野選手をセンターバックに起用したことは、全く不思議ではありません。
まとめます。
相手のポーランドは、強豪とはいえ、
今回のW杯では、セネガルに1-2、コロンビアに0-3と苦戦。
さらにその結果により、
“ポーランドはグループリーグ敗退が既に決定”
していました。(目線を変えますと日本戦は消化試合ともいえます)
そのような状況下で、
長谷部選手、香川選手、本田選手などの
ベテランプレーヤーを休める(スタメン起用を控える)ことは、
次の決勝トーナメントを考えた上では、選択肢の一つ
ともいえます。
そして、
乾、長谷部両選手が先の試合で既に警告を受けていることから、
累積カードによる出場停止のリスクを回避するための意図的な温存
も頷けます。
さらに、
相手のストロングポイントから消すという観点からの
右サイド、及びセンターバックの補強
は的を得ています。
相手ディフェンダーの弱点でもある“裏をつくFWの飛び出し”
は、強豪国に勝つための分析から導き出されたものです。
『意外な選手変更』
『奇策』
など言う言葉が新聞やネットにも取りだたされて いますが
決してそうではありません。
功を奏したか否かは別として
そこには、西野監督の戦略的な意図を感じました。
正に、
強か(したたか)な戦略
です。
そして・・・
その強かさは、
ポーランド戦のタイムアップ前に行った
ボールキープにも見られました。
大きな論議を呼んでいるこの(終盤の)試合運びについては、
次回に書きたいと思います。