基準や感覚のズレは恐ろしい
現在、2018 FIFAワールドカップ アジア最終予選、
日本はグループBで3位。
◇順位 ※()内は勝ち点です・・・
1位 サウジアラビア(10)
2位 オーストラリア(8)
3位 日本(7)
4位 UAE(6)
5位 イラク(3)
6位 タイ(0)
最終予選は、まだ6試合残っている中ではありますが、
現段階(*順位)においては、
日本は、ワールドカップ出場権を得ることはできず、
北中米カリブ海5次予選4位の国との「大陸間プレーオフ」出場をかけて、
グループAの3位の国と、
“ホーム・アンド・アウェー方式で対戦する”ことになります。
この現状に関して、
『ハリル叩き』
と呼ばれる“監督批判”が、
にわかに世間で湧き上がっています・・・。
ハリルホジッチ監督については・・・
日本はW杯で惨敗、
さらにアギーレ監督の疑惑問題の不安定な状況下、
異国の地でW杯本大会を2度経験し、
アルジェリア代表の監督として、
前回W杯ではそのアルジェリアを史上初のベスト16に導いた経歴から、
周囲は大いに期待を持ちました。
デビュー戦直後の記者会見で、
2014 FIFAワールドカップまでの戦術的欠陥を批評。
しかし・・・
1年が経過し、その徹底した「フィジカル主義」で、
スピード、パワー、アグレッシブさ(攻撃的な志向)に偏重した選手の選考。
選んでは外すの繰り返しになり、
結局残ったのは、ザッケローニ元監督が選んだ代表選手とあまり変化はなく、
先発で起用されるも、結局は「海外組」。
先月1日のUAE戦に敗れて以降、試合ごとに進退問題が浮上。
その状況下、
今月11日、W杯アジア最終予選のオーストラリア戦の前日会見で
『1年間の成果』を尋ねられ、
日本代表への批判、
負傷者続出の現状に対する質問の連続にイラ立ちを隠せず、
監督は司会者をさえぎり、
「1年前にこういう状況が分かっていれば・・・。
こういう状況とは、海外組15人中12人が(所属チームで満足に)
試合に出れていないこと。
(当時は)“全員プレーしている選手を選ばないといけない”と
話していましたから・・・」
通訳が訳しているのに関わらず、
会見の途中で途中退席。
「他に代わりは誰かいるか?」
チームとして、
代表チームの選手たち、個々が成長していないこと。
海外組の現状、国内組の選手たちのそれぞれの伸び悩みに対して、
半ば失望している様子でした。
そのオーストラリアとは、1-1の引き分け。
アウェーで勝ち点1を積み上げ、
最低限の課題はクリアした形ですが・・・
幸先よく先制したものの、
PKを献上し同点に。
終わってみればどことなく、息切れした(尻すぼみの)内容に、
マスコミを中心に、いよいよハリル叩きが始まりました。
ボスニア系フランス人監督“だから”、「フィジカルをベースに選手を選考」。
それは、体脂肪率などの身体的データを重視していることからでも、一目瞭然だろう。
・・・という記事も見ました。
ところで、監督が全選手に要求したこと・・・
『体脂肪率12%以下にすることを求めること』
果たして、このように身体的データを代表選考のスケールに持ち出すことは、
おかしいことでしょうか?
さらに、オーストラリア戦の後、
代表候補のゴールキーパートレーニング合宿が、大阪府内で行われました。
そこで、GK選考の基準に、
『スクワットで体重の1.5倍以上の重量を挙げるノルマ』
を新たに設定。
この記事の題名が、
「ハリル監督、また鬼指令」。
では、日本代表に選ばれようとするGKプレーヤーが、
体重の1.5倍以上の重量を挙げることは、それほど困難なことでしょうか?
それが、“鬼”指令なのでしょうか?
少し、冷静にならなければいけません・・・。
体脂肪とスクワットに関して、
じっくり考察してみたいと思います。
《体脂肪について》
まず、体脂肪とは、体重のうち、“体脂肪の重さ”が占める割合のことです。
体脂肪は、体のどこについているかによって、
「皮下脂肪」と「内臓脂肪」などに分けられます。
体脂肪は、エネルギーを貯蔵したり、内臓を保護したり、
さまざまな役目を果たしていまするので、
ただ悪いばかりのものではありません。
◎成人男性の場合の判定
低い… 5.0%~9.9%
標準… 10.0%~19.9%
やや高い… 20.0%~24.9%
高い… 25.0%~
※参照:Lohman 氏(1986)、長嶺 氏(1972)提唱の肥満判定の値
さらに詳しくは、
18~39歳の一般成人男性の場合、
理想とされる標準値は「11~21%」といわれています。
しかし、この数値は、あくまで一般人の場合で、
アスリートは(競技にもよりますが)、
この基準値を“大きく下回る場合が多い”です。
医療痩身専門院の医師監修のデータ参照にしますと・・・
テニス 錦織圭 選手 約6%
ボクシング 井上尚弥 選手 約10%
さらに、
中田英寿 氏 ⇒ 約4%
中村俊輔 選手 ⇒ 約6%
本田圭佑 選手 ⇒ 約8%
では、“世界最高峰”と呼ばれるイングランドプレミアリーグのプレーヤーは、
一体どのくらいでしょうか?
L.サットン 氏(2009年)によりますと、
コーカソイド(白人)のプレーヤーは、10.7%平均(+-1.8%)、
コーカソイド以外のプレーヤーは、9.2%平均(+-2%)
だということです。
リヴァプールのJ.ミルソム 氏(2015年)らの調べにおいても、
トップチームの所属のプレーヤーは、10%(+-1.6%)であったそうです。
つまり、世界トップリーグのイングランドプレミアリーグのプレーヤーは、
『10%前後』が、平均値であることが明らかにされています。
《スクワットの最大重量について》
まず、GKに限らずアスリートは、ウェイトトレーニングにより、
筋骨隆々にならなければいけないということはありません。
なぜなら、一概に「筋肉量と筋力と比例しない」現実もあるからです。
ただ、太い筋肉が強い筋力を発揮できるというのは、
(印象だけの問題ではなく)科学的に考えても事実ではあります。
発揮できる筋力の強さは、“筋肉の断面積”に比例する部分があります。
詳しくは、1㎠あたり4~10kgであるといわれています。
(*ちなみに、この4~10kgの開きが、筋肉をうまく使えるか否かに関係しています)
再度、論点をスクワットに当てます。
ある、ジムインストラクターの方の話です。
「最近ジムに来たラグビー経験者の方(体重85kg)は、
初めてのバーベルスクワットで100kgを挙げ、
コツを覚えた次の週には140kg、
一か月後の現在は、160kgでメインセットを組んでいます。
MAXは測定していませんが、おそらく200kg近いでしょう。
『(アスリートの)基礎体力の高さとはこういうものか』
と驚かされました・・・」
さらに別の指導者の方のご意見です。・・・
「フルスクワット1.7倍
ベンチプレス1.2倍
デッドリフト2.2倍
クイックリフト1.1倍
・・・
私が監督ならば、
上記記録に達成しない限り、ベンチ入りはさせません。
アスリートととしては失格・・・。
それくらい大事な要素です。
相対筋力が低いと怪我もしやすいですし・・・」
アスリートの競技能力向上のための、
トレーニング指導をされている方の実際の現場の声です。
上記の言葉は、“高校”野球の指導に行かれた際の一言です。
あくまである指導者の見解ですが、大きなポイントになり得ます。
また、一昨年のJISS(国立スポーツ科学センター)スポーツ科学会議で、
オーストラリアのエディス・コーワン大学エクササイズ&スポーツ科学教授の
ロバート・ニュートン 氏は、
「どの程度の筋力を目指せば良いのか?」
ということに対する見解として、次のように述べました・・・
「その1つの目安として
『スクワット1RM(繰り返して行える最大の回数)が、体重の2倍』
を目指すと良い」
これらを全て考慮しても分かるように、
ハリルホジッチ監督の
日本代表GKへの
「体重の1・5倍以上をスクワットで挙げよ」
は、決して無理な要求ではありません。
むしろ、最低限必要不可欠なことだと思います。
体脂肪のことも同様です。
マスコミの方が書き立てることと、
アスリートの世界とのズレを感じるのは、
私だけでしょうか?
「ハリル監督、鬼指令・・・」
ハリルホジッチ代表監督の、何もかも全てに賛同するわけではありません。
しかし、世界を知っている監督の方針に対して、
周囲の批評は、明らかな素人考えにしか感じません。
日本代表なのに・・・
『12%の体脂肪率が切れない』
『体重の1.5倍の負荷のスクワットができない』
そのようなレベルで、
果たして“代表選手”と呼べるのでしょうか?
一流アスリートの“当たり前”とは、何でしょうか?
この「基準と感覚」が、きちんと整わない限り、
日本代表のさらなる躍進は、
残念ながら難しいでしょう。