安易な満足が招く、勘違いした自信
「子どもに自信をつけさせたい」
これは、親がわが子へ持つ希望。
「自分に自信を持ちたい」
これは、子ども自身の希望。
どちらも、キーワードは
『自信』
です。
先日、
休日にたまたまつけていたあるテレビ番組(再放送)を見て
驚かされました。
番組名や放送局が分かってしまいますが、
とても気になったことなので書きたいと思います。
掃除と料理・・・家事が得意な芸人が、
ある小学校に出向き
「子どもたちが苦手な食材で給食をつくる」
という内容でした。
ちなみに、この家事が得意な方・・・
正体は若手お笑い芸人で、
その得意な家事を記した自著は10万部を突破したそうです。
そもそも見るつもりはない番組でしたが、
クラブのメンバーと同じ世代の小学生が出ていることもあり、
子どもたち(現代っ子)の様子を確認するために、
チャンネルを変えずに見続けました。
舞台は、関東のとある伝統ある私立小学校。
その学校で
「給食を作って欲しい」
と番組にオファーが入ります。
普段の子どもたちの昼食は、給食ではなく弁当。
その日常の中、
「温かい食事も食べさせたい」
と月に1度、学年ごとにカフェテリアでの給食を実施していました。
それ(月1回の給食)を担っているのは、
在校生や卒業生の保護者、食育ラボという有志の方々です。
番組への要望は、
●多くの子どもが苦手とする食材で給食を作ること
●カロリーは約750kcal、塩分は2.5g以内で作ること
という条件つきで。
取り上げられた食材は、
◎ニンジン(人参)
◎トマト
◎ピーマン
◎アジ(鯵)
この3つの野菜が敬遠される理由とは・・・
これらの野菜が持つ
「においや味」
「食感」
など、想像通り一般的な理由です。
鯵については、
「青魚の臭い」
「骨が多い」
などの理由からでした・・・。
そこで、依頼を受けた“◯◯えもん”なるこの芸人が対処します。
まず、子どもの嫌いな食材第2位のニンジンを使ったメニューが登場。
▶みじん切りの玉ねぎを炒め、すりおろしたニンジンを絞り、
その絞ったニンジンと小麦粉を混ぜて衣に。
▶アジ・玉ねぎ・ニンジンの汁を混ぜて四角に成形し、
先のニンジンの衣をつけて揚げ焼きにして「アジバーグ」を作る。
▶ケチャップにはトマトを使用。
トマトをざく切りにして、玉ねぎとトマトを炒め、
ニンジン汁とコンソメを入れて煮詰めて「トマトと玉ねぎのソース」を作る。
これをアジバーグにかけ、パンで挟んだ
一つ目のメニュー
「アジバーガー」
が完成。
2つ目は、子どもが嫌いな食材第1位のピーマンを使ったメニュー。
玉ねぎとピーマンを炒めバターとじゃがいもを入れ、
さらに水・豆乳・コンソメを加えて、それらをフードプロセッサーにかけ
「ピーマンとじゃがいものポタージュ」
を完成させます。
しかし、味見の場面で、ピーマンの苦味が残っている事に気づきます・・・。
一方で、カロリーに制限があるため調味料が使えず(ごまかす事ができず)、
頭を悩ませます。
その打開策とは・・・次のようなものでした。
▶ピーマンを千切りにして苦味を抑える方法で対応。
ピーマンは、縦の繊維を切ると苦味が出てしまうので、
みじん切りを止めて、繊維に添って切る千切りに変更。
▶さらに、“しらすクルトン”を乗せることにより、
しらすの塩味とうま味でピーマンのにおいを抑えることに成功。
苦しんだ末に、二品を完成。
様々な理由でニンジンやピーマン、青魚が嫌いな子ども達が、
完成した「アジバーグ」と「ピーマンポタージュ」の前に座り、
箸をつけます。
・・・トマトが苦手なAくん
・・・ピーマンが嫌いなBさん
・・・魚が嫌いなCくん、Dくん
メニューの中身は知らされていない中、
それぞれが何の疑問も持たずに完食。
その場面を別の場所でカメラを通じて見ていた保護者たちも
口々に喜びの声をあげます。
「食べてくれている~」
「信じられない~」
最後に、
子どもたちへ番組スタッフから、
今回の給食に、ニンジンやピーマン、鯵が使われていることが明かされました。
それに、子どもたちは驚きます。
さらに・・・
この映像を目の当たりにしたスタジオの芸能人たちの言葉が衝撃的でした。
「『克服した人?』て、
あんなに大勢が手を挙げるんだ」
「1個自信がつくと、
子どもって克服できちゃうからね」
「乗り越えたね」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・。
違った意味で
驚かされました。
『克服』
『乗り越える』
『自信』
それらの言葉は、
本来どのような場面に用いられるものでしょうか?
今回、目にしたものは、
『克服』ではなく、
大人の策略により、
子どもの目や感覚が騙された
所謂、
『ごまかし』
にしか過ぎません。
子どもたちは、
大人のその“まやかし”ともにいえる行動に
振り回されただけとしか思えません。
今回のような克服系のプログラムは、
巷ではたびたび見かけます。
しかし、その結果から一体何が得られるのでしょうか?
“できた”時に
人は自信を掴みます。
ただそれは、
人に与えてもらってできることではなく、
“自分の力で掴んだ時”、
自信をつけていきます。
今回のアジバーグとピーマンポタージュ・・・
これらを食べた子どもたちは、
本当に“食材”を「食べた」ことになるのでしょうか?
ニンジン、トマト、ピーマン、アジの美味しさ
とは何でしょうか?
すりつぶしたり
姿形を全く変えては、
そのものが持つ本当の味、感覚(味覚)は
消えてなくなります。
この克服プログラムの考え方、方法で
“とりあえず食べた”子どもたちは、
食材の本当の味に向き合うことは、
「これからもない」わけです。
ニンジンは独特の甘みが
トマトは独特の食感が
ピーマンは独特の苦みが
アジは青魚独特のにおいが
敬遠される理由ですが・・・
その食材の特徴は、それだけでしょうか?
一方でその裏にある、
“美味しいところ”は感じないのでしょうか?
繰り返しますが、
このたびのようなやり方では、
子どもたちはこれから先もこれらの苦手としている食材を
積極的に口に入れることは
残念ながらないでしょう。
今回、大人たちがやったことは・・・
例えるなら、
食品カプセルに、
子どもの苦手とする食材を粉砕して詰め込み、
それを子どもが飲んだだけのことです。
本当に残念なことです。
それは大人が子どもに正しく向き合っていない結果、
子どもたち自身も
自分に向き合うことができないのです。
嫌なことから逃げることを教えたら、
次も逃げることになります。
逃げた結果
なんとか嫌なことをせずに歳を重ねていけば・・・
その子はどんな大人になるのでしょうか?
「大切なことは『真の自信』をつけること」
ではないでしょうか?
「自信とは『自分でつかむ』もの」
大人はあくまできっかけづくりしかできません。
しかし、そのきっかけが大切でもあります。
ではそれ(きっかけ)は、どのようにつくるべきでしょうか。
嫌なことから逃げる方法を指南すること・・・
これは親心といえるでしょうか?
サッカーの現場でも似たようなことを見かけます。
先日、地区の子どもたちを集めた活動に
出向きました。
「ボールを止める・蹴るの基本ができていない小学生」
にたくさん会いました。
想像ですが・・・
日頃から、ボールを「止める」「蹴る」といった、
多くの人間(特に年齢の低い子ども)が嫌がる
『単純で繰り返しを必要とする
基礎トレーニングが施されていない』
ことが分かりました。
食の好き嫌いが多い人は、人の好き嫌いもあると聞いたことがあります・・・。
一概には言えませんが、
好き嫌いが多い人は、練習の好き嫌いも多いはずです。
食のメニューと同じように、練習メニューも数多くあります。
その中でも、強度や難度の“負荷のかかる練習メニュー”は、多くの人が敬遠します。
(基本的に「練習が大好きだ」という人は、あまりいないかもしれません)
ただ一方で、
練習の好き嫌い、選り好みをしている人は、
上手くはなりません。
サッカーの練習メニューには、必ず理由があり、
(👆残念ながら、大人が理由のない練習をさせている場合もありますが・・・)
その理由を自分から解ろうとし、
「なぜやるのか」
を理解して取り組むから、トレーニング効果が生まれ、
上達していくのです。
トレーニングする側が、好き嫌いではなく、
そのメニューに対して、“正しく向き合えるか”です。
「できない」
「難しい」
から
『やらない』
ではなく、
それができるようになるためには、
何が足りないかを正しく見極め、
たとえ難しくとも
「一歩自分から足を踏み出せるか」
です。
好き嫌いを(気になりながらも)見逃され、単純に甘やかされ、
大人になったその時・・・“夢の”プロサッカー選手になっているでしょうか?
「プロは、競争社会で戦う
『生きる強さ』
がないと生きてはいけません」
でも・・・
サッカー選手ではなくても、
大人は仕事をします。
仕事をする職業人は・・・みんな“プロ”です。
プロは生きる力、その強さが問われます。
“◯◯えもん”に頼って歳を重ねた人間は、その道のプロにはなれません。