走り込みをすれば足は止まらない?
サッカー強豪国、
ブラジル代表の試合の進め方・・・
"高い技術力"と"アスリート能力"をベースに、
その『戦い方』にも、感嘆させられました。
一カ月以上経過した今も、
その衝撃が、頭に焼き付いて離れません。
日本と世界との差・・・
まず、
一瞬の動き
「スプリント能力」
・・・
それを支える脚の力。
「ポゼッション(遅攻)」と「カウンター(速攻)」
・・・
それを、試合状況や相手の状態に応じて
巧みに使い分けていました。
フレキシブル且つ、素早い対応力。
以前にも触れましたが、
この試合の前半2度の決定機(*日本にとっては危機)
をもたらしたカウンターアタックは、正に圧巻でした。
ブラジルの選手は、
「ここがチャンスだ」と感じると
複数のプレーヤーが、アタッキングサードに一斉に流れ込みます。
しかも、
全速力で駆け上がりながら、
ボールコントロールは、全くブレませんでした。
カウンターのスピード、厚みは、
日本代表とは、異次元ともいえるレベルでした。
ところで
このような強者を相手に対し
試合の終わりに足が止まらないように・・・
"フィジカルを高める"
名目上、
"ただひたすら"長距離ロングランを課している
時代錯誤な部活動もある
と聞いています。
ちなみに
有酸素能力もサッカーには重要な要素ですので
心肺機能を高める上においてのランニングを
完全否定するわけではありません。
しかし、
試合中、その試合の後半でなぜ足が止まるのか・・・
この背景を理解しているでしょうか?
それは、
足が止まる状態に陥っているのです。
それは、つまりどういうことが原因?
体温、電解質異常を含めた脱水、筋肉の細かい損傷、エネルギーの枯渇、
そして、活性酸素。
これらの(疲労の)源が、自律神経の働きに関与し、
疲労感を引き出します。
では、よく耳にします乳酸は?…
近年の研究では、乳酸イコール疲労を感じさせる物質ということではなく、
LT(乳酸閾値)という乳酸を分解する限界値を超えた際、
「疲労感、さらには筋肉に対して動作の妨げが高まる」
ということが、明らかにされてきています。
『攻撃時の単純なミスによるボールロスト』
その後
『相手に思うようにボールを運ばれ、帰陣を強いられる』
・・・
いくら高い心肺機能を有したとしても
"これ"を繰り返していたら
必然的に足は止まっていきます。
ブラジルとの親善試合での具体的な例があります。
2度目のPKとなるブラジルのカウンター攻撃の場面です。
11月15日公開 ~2017国際親善試合 対ブラジル戦で見えた課題〈守備面〉~
その内容を振り返ります。
右サイド、酒井宏樹選手⑲のクロスは、
ブラジルボランチのカゼミーロ選手⑤にブロックされます。
ボールを奪ったカゼミーロ選手は、
右足で前方にロングフィードを試みますが
自チームのマルセロ選手と重なったため、
キックフェイントを用いて瞬時にプレーを変更します。
そして、切り返したボールを素早く左足でロングフィードします。
このボールをつなぎ・・・
中央から一気に逆サイド(ブラジル右サイド)へ。
右サイド深い位置まで進めたボールですが、
このボールをオーバーラップした右サイドバックのダニーロ選手㉒が
中央のネイマール選手にクロス。
センターバックとボランチの間にポジションを取っていたネイマール選手は
ジャンプヘッドで、至近のフリーのガブリエル・ジェズス選手⑨に
ボールを落とします。・・・・
(この時点、ガブリエル・ジェズス選手は完全にフリーな状態です!)
日本守備陣は、完全に“手遅れ”の状況に追い込まれていることが解ります。
慌てて対応した山口選手⑯は、たまらずファウルチャージしてしまいます。
このプレーが、PKを与える結果となります
・・・
このブラジルの鋭く迫力あるカウンター攻撃は、
酒井宏樹選手のクロスが、ブラジル選手にブロックされるところから始まるのですが
・・・
実は、この一連のプレーの直前に
(日本のプレーに)大きな問題があります。
では、検証します。
[日本の右サイド(*アタッキングサード内)]
井手口選手②が大迫選手⑮に投げ入れます。
そのボールを大迫選手がワントラップして、
中央にクロスボールを入れるモーションに入りますが、
マルセロ選手⑫の寄せが速く、断念。
大迫選手は、ボールの出どころであった井手口選手にバックパスすることに変更。
そのボールに対し、
フェルナンジーニョ選手⑰が外から足を伸ばしてきたため
大迫選手はチップ気味に浮かし、
井手口選手にボールを返しました。
・・・
したがって、ボールは画像のように少しバウンドしています。
⇩
このボールを井手口選手が、
ワンタッチ(ノートラップ)で中の酒井選手に送るのですが・・・
ライナー性の浮き球のパスにつき
酒井選手は胸トラップで処理することとなり、
次のプレーは遅れ(ボール処理に時間を要し)
カゼミーロ選手⑤のブロックを受け、ボールを失います。
・・・
先のブラジルのカウンター攻撃は、"ここ"から始まるのです。
では、場面を再度戻します。
⇧
この大迫選手からのリターンボールを酒井選手にダイレクトでパスを送る場合
「浮き球でパスするべきだったか」
「ゴロでパスするべきだったか」
・・・
浮き球にする必要性はないと感じます。
一方、浮き球を選択する理由としては
「相手がじゃまなので(相手の)頭を越したい」
「浮き球をあえて送り、ボールを受ける味方の次のプレーを有利にさせたい」
(*例えば、ヘデイングシュート、ループシュートを促す等)
などが考えられますが、
画像を観ていただくと解りますが、
酒井選手はニアサイドで、
「ゴールに背を向けています」。
井手口選手が酒井選手に求めたプレーは
ヘディングのフリック?
はたまた、
オーバーヘッドキック??
・・・
どのようなプレーを求めたのでしょうか?
この酒井選手の状況(角度や身体の向き)では、
「シュートは考えにくい場面」
です。
さらにもっと基本に立ち返り、考えてみましょう・・・
『浮き球とゴロ』
どちらが処理しやすいボールでしょうか?
といいますと
(芝のコンディションが悪くない限り)
明らかにゴロのボールです。
では、この場面で
なぜゴロのボールを送らなかったのでしょうか?
それは井手口選手にしか分からないことですが、
観ている側からしますと・・・
安易なキック(パス)に感じてしまいます。
正しく判断して
丁寧にパスを出していれば・・・
あのカウンターを受けることはありませんでした。
この局面を観て明らかになるのは、
そして、インサイドハーフの井手口選手、
さらには画像には写っていませんが、ウインガーの原口選手⑧も至近にいます。
(※日本CK直後のスローインのため、左ウイングの原口選手が流れでこの際は右にいます)
つまり、
日本が右サイドの限定された場所で、
4人がプレーに関与し、かなり前がかりになっている状況です。
自ずと背後(*日本陣地)には、大きなスペースができている状況です。
力のある相手に対し、この状況下での単純なミスは命取りです。
そこ(スペース)をブラジルは逃さず、一気に日本ゴールまで近づきました。
当然、
日本は、全速力で帰陣を強いられることになりました。
攻めなくては得点できないので、ラインを上げる
⇓
しかし、単純なミスで戻ることなる
⇓
そのたびにスプリントを強いられ、体力は消耗していく
・・・
これでは、体力強化を念頭にフィジカルトレーニングを積んだところで、
結局は、試合後半には足が止まる結果を招くばかりです。
有名な解説者の方が、よく口にする言葉があります。
「シュートで終わらなきゃ」
やみくもにシュートを放っても意味はないのですが・・・
確かに一理あります。
シュートをすれば、入らなくとも相手ゴールキックで再開となりますので、
陣形を整えることができ、カウンターを受ける心配はなくなります。
最も怖いのは、
『攻撃の途中で簡単にボールを失い、逆襲を食らう』
ことです。
ではどうするべきでしょうか?
それは強豪国から学ばないといけません。
『単純なミスは犯さない』
ことです。
そして、
ボールを奪われたとしても、
『すぐさまその相手の反撃の目を封じる』
ことです。
単純なミスは、
自身の足下のボールコントロールの乱れ でもあります。
近年、急激に向上したとはいえ、
まだ日本の技術レベルは、
強豪国と比べると断然見劣りしてしまうのが現実です。
だからこそ・・・
育成年代でボールをしっかりとコントロールする
『真の技術』を身につけるべきです。
ボールが扱えなければ
いくら普段のトレーニング時間に、ランニングを繰り返したところで
「試合では足を止めさせられる」
現実を突きつけられます。
「サッカーはボールを持ったチームに優位性があります」
「ボールを持てないチームは、相手に動かされるだけになります」
「相手のレベルが高ければ、ボールに振り回され、さらに走らされます」
足が止まってしまう理由を、
「走り込みが足りないせい」
「気もちが足りないせい」
と単純に決めつけるのは
ナンセンスです。
相手に走らされているのはなぜでしょうか?
それは、往々にして
相手よりもボールコントロールの技術が拙いからです。
では、相手に奪われないボールコントロールを身につけるのには?
・・・
繰り返しますが、
膨大な時間とエネルギーを要します。
だから、
育成年代に正しくボールに向きうことを習慣化し、
丹念にボールコントロールの技術を積み上げていかなければなりません。
日本サッカーの育成のシーンでは、
未だにひたすら走る量を増やすことによって、
ピッチ上の問題を解決しようとすることが善しとされています。
足が止まってしまう本当の理由はどこにあるのでしょうか?
育成期に、ボールコントロールの時間を省き
指導者が、フィジカル強化と銘打って"素走り"を強要することは
「プレーヤーとしての限界をつくることに等しい」
と考えても決して過言ではありません。