論理的な根拠
ハリルホジッチ氏の監督解任について
あれから数日・・・
大半の識者の見解は、
「(協会の)解任の決断は遅かったのはあれど"良かった"」
というものでした。
『良い(良かった)』
というものに対して、
私は、その"論理的な根拠"というものが必要だと考えています。
では、
「前回のブラジル大会を目指していたザッケローニ氏」
と
「今回のロシア大会を目指していたハリルホジッチ氏」
そのデータを比較します。
ワールドカップアジア最終予選結果での
一つの興味深いデータが残っています。
▶ボール保持率 58・2% ➠ 48・3%
▷タックル数 18.8回 ➠ 23.1回
▷ボール奪取数 69.3回 ➠ 76.5回
▷ボール奪取から10秒未満のシュート数 1.13本 ➠ 3本
この顕著な変化・・・
これが、
『日本サッカーの大きな変化』
の一つといえます。
2人の監督のワールドカップアジア最終予選の成績を見比べてみましょう。
8試合:5勝2分1敗 勝点17
得点16 失点5 得失点差+11
順位1位(*5チーム中)
↓↓↓
10試合:6勝2分2敗 勝点20
得点17 失点7 得失点差+10
順位1位(*6チーム中)
数字上、ここでは"大きな差"は見当たりません。
では、あまり成長はなかったということでしょうか?
もう少し掘り下げて
「なぜ、日本代表の監督がハリルホジッチ氏になったのでしょうか?」
というところまで考えてみましょう。
2014年ブラジルW杯での戦績は
3試合0勝2敗1分
得点2失点6得失点差-4
グループ最下位。
記者を前に、W杯での日本の戦いを総括していました。
「方向性は間違っていなかった」
と、ザッケローニ氏が目指したサッカーを否定しませんでした。
ただ、その中で、気になる一言がありました。
「この4年間は、
自分たちでボールを動かして相手を崩していくサッカーをやっていこうとしていた。
決して間違った方向性だったわけではなかったが、
世界の舞台では、もう少しいろんな展開に応じた戦い方が必要だった」
・・・
つまり、
ザッケローニ氏のサッカーは、
攻撃的なサッカーではあったにも関わらず、
結果が出にくいものであったということ。
殊更、強豪国に対しては、ゴールを奪うことが長けていたとはいえませんでした。
ボール支配率は高かったのですが、
反面、相手ボールに転じた瞬間、
各所に穴が発生しやすいため、急な反撃を食いやすいという問題もありました。
(W杯では、コートジボアール、コロンビアには、正にそこを突かれて敗れました)
それらの反省を踏まえ
招聘されたのがアギーレ氏でした。
日本代表の指揮ではない他の問題が生じ、
短命に終わった体制でしたが、
「目指していたものは明らか」
でした。
その試合とは・・・
(*キリンチャレンジカップ2014 9/4@札幌ドーム)
3トップの後ろには、一般的によく言われる"足下の技術に優れたタイプ"ではなく、
細貝萌・田中順也両選手のような、"当たりに強いタイプ"を並べ、
その背後をカバーするアンカーに、センターバックの森重選手を起用。
(☛2インサイドハーフに1アンカー)
ひとたびボールを奪ったら、前線にロングボールを送り込んで
「3トップが(身体を張って)基点をつくる」
か、もしくは
「こぼれ球を2列目が拾ってサイドへ展開してクロス」
という
『堅守速攻型のカウンターサッカー』
を展開。
ちなみに、この日の3トップとは・・・
FWもこれまで日本人が好む
ドリブル突破やショートパスを特徴とした人選でないことが解ります。
・・・
その後、
リーガ(スペイン)での八百長疑惑問題が浮上し、
アギーレ体制は、志半ばでとん挫。
そこで、
再度、協会が日本代表の指揮官を探し求めたところ、
その任に就くことになったのが・・・
ヴァイッド・ハリルホジッチ氏でした。
ハリルホジッチ氏は、
フィジカルがそもそも強いといわれている国を率いていました。
「その方法を日本に用いるのか?」
ということになりますが、
繰り返しますが、
日本代表の
"明らかに足りない部分"
・・・
その部分の補強を、強豪国出身の実績のある監督経験者に託したわけです。
前回W杯前に
元日本代表の田中マルクス闘莉王選手が語った言葉が胸に響きます。
「誰もが理解しないといけないのは、
まだチームでも個でも日本と強豪国には歴然とした力の差があるということ。
みんな口ではわかっていると言うけど、それを態度や行動でも謙虚に示さないと。
でも、何もそれはネガティブに振る舞うことではない。
自分たちの立ち位置を正確にわかっていないと、勝負には勝てない。
なんで前回のW杯(*南アフリカ大会)で決勝トーナメントに進出できたか。
それは失点が少なかったから。
だから勝つために、もっと守備を意識することの何が悪いのか。
その守備意識に、今伸びている攻撃的な要素を加えていけば、
それこそが間違いのない成長だと言えると思う。
それがいきなり自分たちの特長、スタンスは攻撃的だ、
ということだけを強調してしまうと、それはまた振り出しに戻ってしまう。
自分たちの立ち位置から理想まではどれぐらいの距離にあるのか。
その距離が測れないのであれば、理想も何も達成できない」
『我々はボール保持率が50%以下のときに、良い試合ができている』
とハリルホジッチ前監督は、普段からそのように語っていました。
あえて相手にボールを保持されたとしも、
その(ボールを保持する)相手の隙を見て奪い、
攻撃につなげるカウンタースタイルのことです。
それはアギーレ氏が目指したことと、流れは変わりません。
1試合平均の保持率に関しては、
4年前の58・2%から、48・3%に下がりました。
W杯アジア最終予選突破を決めた昨年8月31日の豪州の保持率は、38・6%。
しかし、相手に打たれたシュート数は5本しかなく、
逆に日本が18本を放って2点を挙げました。
日本代表の選手たちが、
攻守にわたって監督の求めるスタイルを実践したからこそ得られた成果(結果)
です。
監督を土壇場で解任した協会は
その解任を決断する論理的な根拠を
未だ示してはいません。
逆に、浮かび上がるのは、
データ上、以前よりも少し変化の兆しを見せている日本代表の姿でした。
間もなく、前監督の記者会見が行われようとしています。
ここで解任が撤回されるわけではありませんが、
ご自身が行ってきたこと想いなどを率直に語っていただきたいと思います。
それが日本協会、日本代表の将来への大きな財産になるはずです。