型(形)
世界で一番で競技人口が多いスポーツは?
諸説ありますが、
サッカーは、その上位にくることは間違いはないでしょう。
それだけメジャーなスポーツですが、
果たして、その『型(形)』というものはあるのでしょうか?
日本の伝統芸能、
能楽、歌舞伎には、型が存在します。
先日、新聞コラムで次のような記事がありました。
落語家の立川談春さんの書いた『赤めだか』に、
師匠の立川談志さんから、こんな教えを受ける場面がある。
テーマは「型破り」と「型(形)なし」。
大きく異なる。
「型ができてない者が芝居をすると型(形)なしになる。
メチャクチャだ。
型がしっかりした奴(やつ)が、オリジナリティーを押し出せば型破りになれる。
「どうだ、わかるか」。
「型」とは、その道の守るべき基本、土台であろう。
〈*参照:中日春秋 2016年12月5日〉
という内容でした。
さて、サッカーのプレーの中にも
誰もが予想しない事をやってしまうというプレー、
つまり『“型破り”なプレー』に、称賛が集まることが多いです。
その中のひとつに、
“ラボーナキック”というキックがあります。
このような方法でボールを蹴る理由は、いくつかあります。
その例・・・
(右利きの場合)
1⃣ゴール正面よりも、左側にずれた位置からのシュートを狙うシーン
⇒左足では威力や正確性が充分ではないと感じた時、“右足”で蹴ることができる
2⃣左サイドでプレーしている最中に、中央にクロスボールを送るシーン
⇒ターン(切り返し)することなく、“右足でクロスを送ることができる
さらに、ラボーナを行うと、
「守備者を混乱させること」
が可能になります。
また、それだけでなく
単に・・・
難しい技術を行うことで、自身の能力を誇示することもできるでしょう。
そのキックの歴史ですが、意外に古く、
1948年9月19日。
ラボーナ発祥の地は、アルゼンチンだという説が濃厚です。
アルゼンチンのクラブチーム間での試合・・・
エストゥディアンテス・デ・ラ・プラタ 対 CAロサリオ・セントラル戦。
エストゥディアンテスでプレーしていた24歳のストライカー、
リカルド・ロベルト・インファンテ選手は、
2点をリードした状況でボールを受けます。
ゴールまでの距離は約35メートル。
突如、インファンテ選手は、軸足になるべき右足を左足の外側に回しキック。
ボールは、そのままゴールネットへ吸い込まれました。
これがこの世にラボーナが誕生した瞬間だと、
アルゼンチンでは、語り継がれています。
このラボーナ・・・
実は
サッカー以外にもありました。
先のリオデジャネイロ・オリンピック、
卓球男子団体・・・
吉村真晴 選手は
勝負のかかる緊張感の高い試合、
その準決勝で、
サッカーのラボーナキックに近いプレー、
『背面打ち』
で、球を打ち返しました。
正に型破りなプレー。
このようなプレーは、どうやって生まれるのでしょうか?
それには、先の新聞コラムがまとめとして書いてありました。
「型をつくるには、稽古しかないんだ」。
これも(立川)談志さんの教え。
型破りなパフォーマンスは、
型があってこそ成せるもの。
つまり、
丹念に稽古、『反復練習』によって、
「基礎基本を確立すること」
ではないでしょうか。
自身、卓球のことは全くの門外漢です。
ただ、想像できることがあります。
吉村選手は、五輪に日本代表選手として出場し、
シルバーメダリストとなったアスリートです。
『基礎基本』が拙いわけがありません。
調べてみました。
卓球の基本とは・・・
それは、“構え”だそうです。
構えは、基本姿勢ともいわれ、
“グリップ”というラケットの握り(持ち方)と同じように
とても大切なもので、
基本姿勢からすべてのプレーが始まり、
プレーが終わったら、また基本姿勢に戻ります。
グリップと姿勢をマスターしたら、
次が“スイング”。
ボールがない状態での素振りを繰り返し、
ムダのないスイングを身体に沁み込ませるそうです。
①ラケットの持ち方
②姿勢
③スイング
・・・
全てが、サッカーに通じているように感じるのは、私だけでしょうか。
この基礎基本ができているからこそ、
実戦でとっさに出てきたプレー・・・
それが
背面打ちではないでしょうか。
ラボーナも同様、
❶ボールの置き場所(持ち方)
❷姿勢
❸蹴り足の振り
が確立していないと成しえないプレーといえます。
最後に、
ラボーナ(rabona)の語源とは?
Google翻訳で訳しますと
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「ずる休み」。
ちなみに、
サッカー雑誌『エル・グラフィコ(*スペイン語版)』は、
このラボーナキックについて、
生徒の格好をしたインファンテを表紙にして、
「インファンテは学校をずる休みをした」
という見出しを付けたそうです。
『サッカーの型』
日本では、それを正確に理解し、
子どもたちに授けている大人は、
果たしてどれほどいるでしょうか?
指導者の中からは
反対に
おしゃれ
かっこよさ
中には、
ちょいワルサッカー
などという言葉すら耳にします。
プレーのビジュアル的な部分ばかりに気をとられ、
正確な型を身につけることを疎かにしてはいないでしょうか?
本当に、ずる休みしているようでは、
サッカープレーヤーの本質を高めることはできません。
相手の意表をつくプレーは、
出そうと思って出せるものではありません。
丹念な基礎固めのトレーニングを経た先に、
咄嗟に出るものです。
確固たる型を持つこと・・・
何事を為すにも、本当に大切です。
しかしその型は、一朝一夕で身に付くものではありません。
子どもたちの周りの
正しい大人の働きがけ(環境)が
“最も重要なポイント”になることは、間違いありません。